CULTURE

2020年6月10日

生理の疑問も不快感も無視しない。「気持ちよさ」は能動的に手に入れる【エミリーウィーク 柿沼あき子×心地よさを探す旅】

 

女性たちが、もっと自由に、素直に、軽やかに生きるために必要なものってなんだろう?

そのヒントを探すため、irohaは「心地よさを探す旅」をはじめました。能動的に行動する女性たちとのおしゃべりを通して、この世界を自分らしく生きるための方法を見つけていきます。

第3回目のゲストは、生理週間を軸に女性のバイオリズムに寄り添うライフデザインブランド「EMILY WEEK」のコンセプター・柿沼あき子さん。当たり前のものに不快感を抱いたことで、自分の心地よさに気づいたといいます。自分の身体と心に耳を澄まし、丁寧に対話してきた柿沼さんの言葉から、「自ら選択することの大切さ」を学びました。

第1回:たなかみさきさん(https://iroha-contents.com/culture/1951.html
第2回:牧村朝子さん(https://iroha-contents.com/culture/2008.html

 

柿沼あき子
「EMILY WEEK」ブランドコンセプター。2009年に女子美術大学を卒業。ウェブプロモーション企業などを経て、2014年に株式会社ベイクルーズにウェブ販促プランナーとして入社。同社の社内新規事業で、生理週間を軸に女性のバイオリズムに寄り添うライフデザインブランド「EMILY WEEK」を提案し、2017年に事業化。

ブランドサイト:http://ew.baycrews.co.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/emilyweek/
Twitter:https://twitter.com/emilyweek_tokyo

 

 

生理の日はチャイを淹れて「自分を受け入れる」

――身体のバイオリズムと向き合うために、柿沼さんが実践しているマイルールはありますか?

柿沼:毎朝、気分に合ったハーブティーを選んで飲んでいます。日中も水筒に入れて持ち歩くようにしていて、「これを飲めば気持ちが回復する」という暗示を自分にかけるというか(笑)。このルーティーンを続けることで、メンタルが保てるようになりました。

とくに気が滅入りやすい生理期間中は、チャイを淹れます。チャイは淹れるのに手間がかかるのですが、その分「自分のためにちゃんと時間を使っている」という実感が持てるので、「自分自身を受け入れるための儀式」として実践していますね。

淹れる道具にもこだわっています。たとえば、野田琺瑯のミルクパンは、木製のまるい柄の部分がお気に入り。触っているだけで安心するんです。気持ちが沈む時期は、道具にも時間にも、スペシャル感を出すようにしています。

 

柿沼さん愛用の野田琺瑯のミルクパン

 

——仕事とのバランスで意識していることはありますか?

柿沼:アプリで生理周期や体調、その日の気分を記録して、自分の身体の状態を把握するようにしています。私の場合は、生理の1週間ほど前から気持ちが不安定になるので、その時期はなるべく社外の方との打ち合わせなどを入れないように調整をしていますね。

精神的な上がり下がりやイライラも、「この時期だからしょうがない」と受け止めることができたので、以前よりも楽になりました。

 

——会社のメンバーと接するうえで心がけていることがあれば教えてください。

柿沼:日頃から自分のバイオリズムによって起きる、気分や身体の不調を共有するようにしています。会議前に、「生理前なので、きつい口調になってしまったらごめんなさい」と伝えることもあります。

コンセプターの私が話すことで、まわりも「じつは私も……」と、身体の不調を言い出しやすくなりました。メンバーそれぞれの事情を知っていれば、互いにフォローし合うこともできます。もちろん環境によりますが、自分の状態を言葉にして周囲に伝えるのは、仕事とバイオリズムのバランスをとるコツのひとつです。

 

 

選択肢はたくさんあることを、ポジティブに伝えたかった

——仕事との折り合いに悩む女性は、まだたくさんいますよね。

柿沼:私も社会人になったころは、うまくできていませんでした。新卒で入った会社では、深夜残業も当たり前という働き方をしていたせいか、2年目から生理が重くなり、毎月、1〜2日は仕事を休むようになって。仕事は楽しいけれど、この先も働いていくなら、何かを変えなければと考えるようになりました。

それからは、自分が「気持ちいい」と思う状態をつくることに徹しました。自分に合いそうな生理用品を調べて試したり、生活習慣を見直したり、眠るときにアロマグッズを使ってリラックスを心がけたり。

なかでも、紙ナプキンから布ナプキンに変えたことは大きかったです。「こんなに心地よく過ごせる生理週間があるんだ」と、驚きました。自分に合うものや気持ちよいと感じるものを見つけたことで、生理週間の幸福度が高まりましたね。

 

 

——そういった経験が、「EMILY WEEK」の立ち上げにつながるのですね。

柿沼:そうですね。私のまわりにも、生理の辛さを口に出して言えない人や、生理用品の多様さを知らない人がいて、それゆえに、自分の身体に無理をさせている女性が多かった。そういった生理に悩んでいる人に、ポジティブなメッセージで伝えていけないかと思いはじめたのが、9年ほど前のことですね。

それからいろいろと考えた末に、みんなが興味のあるファッションやデザインの切り口から働きかけていくのが一番響くのではないかという答えに行き着きました。はじめは自分でブランドを立ち上げようとしていましたが、ノウハウもないので、まずは勉強するつもりでいまの会社(ベイクルーズ)に転職したんです。入社2年目のときに開催された新規事業コンテストに参加したことが「EMLY WEEK」誕生のきっかけです。

 

――企画提案時の社内の反応はどうでしたか?

柿沼:ベイクルーズはファッションブランドをメインに扱う会社なので、生理用品を主軸においたブランド展開には衝撃があったみたいです。コンセプトを説明したら、「うちでやるの?」という空気になりました(笑)。「女性がネガティブになってしまう1週間」があることすら知らない役員もいたんです。

提案時にベイクルーズが目指す「『女性を笑顔にすること』は外側を飾ることだけじゃなく、内側の悩みも改善してこそ叶えられる」という想いを伝えて、納得してもらうことができました。最終的には「せっかくベイクルーズでやるんだから、おしゃれなものをつくろう」と背を押してもらえましたね。

 

デザインやファッションを通して、生理を当たり前にしていきたい

——プロダクトをつくるうえで、とくにこだわったのはどんなところでしょうか?

柿沼:デザインと素材にはこだわりました。おしゃれなデザインであること、そして、生理中の敏感な肌でも心地よく使えるよう、肌触りのよさも重視しました。

ブランド立ち上げ当時は、社会全体で生理について話すことへのタブー視が、いまよりも強かったと思います。たとえば、私は以前WEB制作系の会社に所属していましたが事業内容や雰囲気は先進的なのに、女性社員たちはチャットでこそこそと、「ナプキン持ってる?」と相談していたんです。

生理のこととなると公にできない空気が多分に存在していて、その原因のひとつは、女性自身が生理について話しづらいと感じていることにあります。だからこそ、「EMILY WEEK」は「SNSに載せても恥ずかしくないデザインにすること」を最初から決めていました。

 

柿沼さんが着ているワンピースもEMILY WEEKでセレクトしているもの

 

――デザインから、女性の生理に対する意識や感覚を変えていこうとしたのですね。

柿沼:ファッションやコスメは早いうちから興味を持って、自分のために何が合うかを選ぶと思うんです。でも生理用品ってそれがない。初潮を迎えて母親から与えられた紙ナプキンを唯一の選択肢だと信じて大人になる人も少なくないですよね。生理用品もコスメと同じように、「かわいい」とか「気持ちいい」といった感覚に動かされるように手にとってもらえるようにしたいなと思っています。

 

――具体的にはどのような部分にこだわりが?

柿沼:ひとつは「色」ですね。いままでの生理用品にはない絶妙な色合いやトレンドカラーをとり入れるようにしています。先日、深いブルーのサニタリーショーツをリリースしたんです。ブルーという色は、「ブルーデイ」のようにネガティブな意味で使用されがちで、だからこそ「ブルーをちょっと明るくする」というコンセプトでアイテムを企画しました。実際にあるお客様が、SNSで「心が落ち着く感じのブルーで好き」と発信してくださったんです。製品の裏側に込めた私たちの想いはちゃんと伝わっていると実感しました。

 

 

――ほかにはどんな反応がありましたか?

柿沼:私が店頭で接客しているときにカップルで来店されたお客様が印象に残っています。生理の症状が重い彼女のために、彼がアロマをプレゼントしていたんです。身体の不調を共有し、気づかい合う二人の姿を見て思わず泣きそうになりました。あとは、店頭で身体やこころの悩みをお話してくださる方も多いです。ショップというある意味公の場で「女性特有の悩み」を口に出して相談し合えるようになったことがとてもうれしいです。

 

——最近はSNSやネットで生理について発信する人が少しずつ増えてきました。世間の空気に変化は感じますか?

柿沼:ここ1、2年で変わってきたと思います。私がブランドの立ち上げ準備をしていた2016 年ごろは、SNSで「生理が辛い」という投稿がバズることはあっても、その辛さに対する解決策は提示されていなかった。でも最近は、悩んだ先の受け皿が増えてきたように思います。

たとえば「EMILY WEEK」以外でも、「ランドリーボックス」というウェブメディアがお悩み解決の情報を発信していたりします。ほかにも、生理をオープンなものにする動きが立て続けにありました。たとえば、2018年にはインドで生理用品の開発と普及に人生をささげた男性の人生を描いた映画『パッドマン 5億人の女性を救った男』が公開。2019年には、生理用品ブランド「ソフィ」が「#NoBagForMe」プロジェクトを始動し、第一弾として紙袋で隠す必要性を感じない、新しい生理用品のパッケージデザインを発表しました。

 

――そういったムーブメントをさらに広げるためには、どうしたらよいと思いますか?

柿沼:これまでの「隠す文化」が根強くあるなかで、個人に無理をさせるのではなく、生理がタブー視されない社会の実現に向けて、「EMILY WEEK」などのブランドやメディアが少しずつでも働きかけて、変えていくことが大切だと思います。

 

 

自分の譲れないものがわかると、「心地よさ」が見つけられる

——「EMLY WEEK」では、生理用品と並んで、アロマなどのセルフケアグッズも揃っていますね。

柿沼:バイオリズムによる不調は、何かをひとつ変えたらすぐによくなるものではありません。大事なのは自分の身体や症状に意識を向けて、アイテムを選んでいくこと。悩みは人それぞれ違うので、自分に合ったものを見つけるお手伝いを「EMILY WEEK」ではしていきたいですね。

 

――たしかに選択肢があることすら知らず、はじめに与えられたものを使い続けている人も多そうです。

柿沼:私もある時期までは紙ナプキンユーザーだったんです。でもそれは、母に教えられるがままに「使っていただけ」でした。その後、自分に合うものを探すという能動的な行動を起こしたことで、いろいろな発見があったんです。ナプキンを布製に変えて初めて、それまで使っていた紙ナプキンはガサガサと音がすることや、毎回ゴミが出ること、肌触りすらいやだったという、無自覚の不快感に気づくことができました。

 

 

柿沼:リサーチをしてみると、PMSや自分の身体に生理週間を軸とした4週間のバイオリズム(身体と心に起こる1週間ごとの変化)があることを知らない女性が多かったんです。だからといって身体のことを、腰を据えて学ぼうとすると難しい部分もあるので、「EMILY WEEK」をきっかけに、4週のリズムが自然とわかってきたり、身体と向き合うことができたりする人が増えるとうれしいです。

 

——大人でも自分の身体に向き合うことができている人は多くないのですね。

柿沼:そうですね。大人だけではなくこれから初潮を迎える人たちにも、自分に合うアイテムはどれで、何に心地よさ感じるのかを考え、選ぶきっかけを提供したいんです。そのなかに、ファッションと同じように選べるデザインや肌触りのいいものがあれば、生理が「ただ嫌なもの」にはならないはず。初潮がもう少し素敵な体験になれば、生理に対する考え方や社会の空気も変わっていくのではないでしょうか。

 

——では最後に、これからの時代、女性がもっと心地よく生きるために必要なものは何だと思いますか?

柿沼:いろいろな事に対して能動的になることだと思います。日常のなかで何か違和感を感じたときに、そこで思考停止せずになぜそれが受け入れられないのかを考えて、じゃあどうしたら自分の心や身体が気持ちよくあることができるのか。その先に、しっくりくるモノやコトを見つける。疑問や不快感を無視しないで追求していくと、譲れないものや自分なりの「心地よさ」がわかってくるはずです。

あと私、誕生日には必ず半身浴をすることにしているんです。そこでこれまでの1年間や今後のことを考えたりします。じつは、「EMILY WEEK」を立ち上げようと決意したのも25歳の誕生日、入浴中のことでした(笑)。もしかしたら、自分のこれまでを振り返って未来について考える日を持つというのも、能動的に生きるきっかけになるかもしれないですね。

 

 

〈心地よさを探す旅〉
第1回:たなかみさきさん(https://iroha-contents.com/culture/1951.html
第2回:牧村朝子さん(https://iroha-contents.com/culture/2008.html

 

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