CULTURE

NEW 2020年11月5日

「足りなくても仕方がない」。紗倉まながAV業界で学んだ、自分の体の受け入れ方

 

多様性が重んじられつつある現代においても、自分の体にポジティブに向き合えている人は多くありません。それはもしかしたら、「女性はこうあるべき」という固定観念が根づいているからかもしれません。

女性たちはどうしたら社会が求めるものから解放され、自分自身の体を受け入れて楽しむことができるのでしょうか?

そこで今回お話をうかがうのは、AV女優であり、小説家、タレントとしても活躍する紗倉まなさん。コンプレックスを手放すこと、能動的に体を使うこと、社会的役割からの開放など、体や性に対する考えについて尋ねました。

 

紗倉まな
1993年生まれ。2012年にAV女優としてデビュー。2015年には「スカパー!アダルト放送大賞」で史上初の三冠を達成する。テレビ出演や雑誌グラビアでも活躍。『週刊プレイボーイ』『messy』でコラムを連載するなど文筆家・作家としても活動している。著書に『最低。』『凹凸』(KADOKAWA)、エッセイ集『高専生だった私が出会った世界でたった一つの天職』(宝島社)、スタイルブック『MANA』(サイゾー)、最新作『春、死なん』(講談社)がある。

Twitter:@sakuramanaTeee

 

コンプレックスを受け入れた、「仕方がない」の考え方

——紗倉さんがAV女優という職業を選ばれたきっかけに、コンプレックスの存在があったそうですね。

紗倉:自分の内面、外面のどちらにも、何ひとつとして魅力や個性を感じたことがなくて。「もうちょっと違う自分になってみたい」「この状態を打開できるかも」という希望を胸に抱いて、2011年、18歳の頃にAV業界に入りました。だから、自分のコンプレックスがこの業界に入る原動力になったというか。

 

——そもそも、なぜコンプレックスを持ってしまったのでしょうか?

紗倉:昔は共感能力や空気を読むことに欠けているところがあって、見た目に対する自信もなかった。周りからの評価と、自分の評価は乖離するものなのに、「絶対にここが悪い」とマイナスなところばかりに注目して生きていました。自分の欠点に意識が向きやすい性格なんです。コンプレックスに縛られているという感覚もありました。

 

 

——デビュー後、見た目や体に対する考え方に変化がありましたか?

紗倉:はじめは「魂と体が若いうちに始めたほうがいいだろう」と考えて、早々にこの業界に入ったんです。でも実際に働いてみると、年齢や体型は関係ないんだと気づきました。

女優さんの年齢層は幅広く、10代から上は70代の方もいる。体型も、華奢な人もいればアスリート体型の人もいて、胸の大きさも人それぞれ。その人たち全員に需要があり、いろんな顔や体の個性が求められているということを実感しました。同業の女性たちには、自分を許容し自愛する心が充実している印象を多く受けます。

 

——コンプレックスとの向き合い方はどうでしょう。

紗倉:私がこの業界で学んだのは、「仕方がない」という言葉のとらえ方です。最初は「諦める」という意味だと思っていましたが、「仕方がない=受け入れる」ということだと気づいて。できないことがあっても仕方がない。足りないことがあっても仕方がない。そんなフラットな感覚になりました。

胸の大きさだって、上には上がいる。他人と比べていくと、世界のすべてと比べてしまうことになるから、底無しの辛さがあるように感じます。そうではなく、自分がいま持っているものを最大値として、どう生かしていくかに注目する。そういう考え方は、前向きでいいですよね。

 

 

——視点の切り替えが、前進する力になったのですね。紗倉さんが見つけた、自身の持ち味は何でしたか?

紗倉:例えば、言葉づかいとか。私の場合、話をするときにゆっくり、のったりと喋ってしまうんです。これはもともとコンプレックスで、本当はもっとテキパキと喋りたいと思っていました。でも作品によっては、こういう喋り方のほうがテーマに合うこともある。自分の持ち味を生かせる作品に出演したとき、私のことを魅力的に思ってくれる人が増えたんです。そうやってキャリアを積み重ねていくうちに、自分が最大限輝けるタイプの作品や傾向もわかってきました。

 

人の意見を聞き入れるほど、自分が自分ではなくなっていく

——SNSが発達し他人からの意見が簡単に目に入ってくる昨今。特に見た目は評価の対象になりがちです。そんななかでも、自分の体を肯定するために心がけていることはありますか?

紗倉:SNSはいろいろな人が利用しているぶん、意見も多様ですよね。なかには「乳首黒いね」「陰毛はもう少し整えたほうがいいんじゃない?」とか、身勝手な発言も見かけます。でも誰にでも好かれようとして聞き入れすぎてしまうと、自分が自分ではなくなってしまうのではないでしょうか。いろんな意見があるなかで、「自分はこれでいこう」という軸がないと、すぐに崩れてしまう。

だから基本的には、先ほどの「仕方がない」を念頭に置いて、多様な意見があることを知って認めるまでに留めておく。「自分に欠けているものがあってもそれは仕方がない」「自分がやりたくなければ、やらない」という向き合い方をしています。それが肯定感にもつながりますから。

 

 

——irohaのお客様のなかにも、「中イキできない」「男性に指摘されたけれど、自分はおかしいのかな」という悩みを抱えている女性が多くて。でも相手に合わせすぎると、あなたではなくなってしまう。それは伝えていきたいですね。

紗倉:そういった意味では、女性のセルフプレジャー文化が発展し、当たり前のことになりつつあるいまの状況は、嬉しく感じますよね。他人の視線や意見に自分の心地よさを合わせていくのではなく、セルフプレジャーをすることで、自分の心地よさを大事に育てていくのがいいんじゃないかと思います。

 

アダルトグッズの充実が、人々の性への意識を変えていった

——具体的には、セルフプレジャー文化にどのような変化を感じますか?

紗倉:見た目にかわいいアイテムが充実してきて、手触りもすごく柔らかくて、品のあるものが多くなりました。これまではセルフプレジャーをオナニーと言っていたし、女性たちのなかでは「秘めたるもの」というカテゴリーだったけれど、年々抵抗感が薄らいできている実感はあります。

化粧品のレビューと同じような感覚で、「私はこれを使っているよ」と、セルフプレジャーについて自然に話せる人も増えてきたように感じます。もちろん、秘めたい人は秘めていいし、公にすることが正義だとも思わないけれど、それを過剰に隠すことも自然の摂理に反するのかなと。

あとは、恋人からアイテムをプレゼントされたという声もよく聞きます。種類が豊富になり、選択肢が増えてきていることで、男性も女性に対して「これ、人気だよね」と言いやすい。多様な選択肢が、コミュニケーションのかけ橋になっているのかもしれません。

 

 

——選べる自由があるというのが大事だったのですね。

紗倉:irohaのアイテムも、本当に種類豊富で楽しくて、選ぶときも使うときも幸福感がありますよね。たしか、私がデビューして2年後の2013年にirohaが発売されはじめたと思うのですが、そこから女性のアダルトグッズもどんどん変わってきた。

以前、代官山の書店に、春画とirohaのアイテムがディスプレイされていて、カップルが「かわいい〜」と言って見ている光景に遭遇したんです。「アダルトグッズってここまできたんだ。すごい」と思いました。数年前に私が量販店で電マを買って、親に「肩のマッサージ用に買った」と言っていた、あの頃の選択肢がない感じが一気になくなりました(笑)。

 

時代ごとに認識は変わる。だからこそもう一度、「性」を考える姿勢が必要

——アイテムが変わると同時に、社会的な性の風潮も変わってきているのかもしれません。

紗倉:SNSでも、「性について語ろうよ」という機会が増えて、急速に変わってきていますよね。例えば「男性が思う女性の生理」や、「潮を吹く=気持ちいい」など、男女間でギャップがある性の認識について、根本から議論されている光景も見かけます。

「いま一度考えてみようよ」みたいな雰囲気になったことで、さまざまな問題が連鎖的に注目されるようになった。そのなかで女性たちも、自分の体に関することや、性への意識が変わってきているのではないでしょうか。社会全体が、女性を特別視させようとするのではなく、誤解されたままの認識を、一つひとつ正しく理解して、わだかまりをといていこうという姿勢になっていると思います。

 

 

紗倉:家族のかたちもそうですよね。家父長制が当たり前だった時代といまでは、父親の役割も変わってきている。どの時代も、その時々で語られるべき問題があるのではないでしょうか。

 

——2月に上梓された『春、死なん』でも、社会的役割に縛られた登場人物が描かれています。

紗倉:書き始めた当初は、役割について書きたかったわけではなかったんです。けれど書き終わってから、「ここが自分は引っかかっていたんだな」と気がつきました。自分の役割を他者から決めつけられて、本来やりたかったこともできないまま縛られてしまうのは、本当にもったいないことです。

 

——自身でも、「社会的役割に縛られている」と気づく経験はありましたか?

紗倉:私の場合、職業的な役割に押さえつけられることが多いかもしれません。いつも「AV女優らしさ」を求められるから、「AV女優らしくない仕事をするな」と言われることもある。女らしさ、男らしさ、母親らしさ、父親らしさ、社会的常識。「〇〇らしさ」っていうのは、何者にも与えられている役割ではあるのですが、やっぱりすべてに応えようとすると、息苦しいですよね。もうちょっと肩の力を抜いて生きられるポイントはないのかなと思います。

 

2020年2月に刊行された紗倉まなさんの最新作『春、死なん』(講談社刊行)。
高齢者の性や母親の性を、鋭い観察と繊細な描写で綴っている

 

快楽に勝ち負けはない。自分で自分を尊重すること

——他人の意見に左右されず、「自分の体の求め」に応じるための秘訣はありますか?

紗倉:私はもともと、嫌な思いを経験してから、自分がしたかったことを見つけるタイプなんです。なるべくトラウマになることをせずに、身を守って生きていくことがベストですけれど、してみないとわからないことが多いですから。「私これは嫌なんだ」と体ではっきりわかると学びになり、二度と繰り返さないように防ぐことができる。それは自信にも、自分を守る術にもなると思います。

 

——セルフプレジャーで「自分の気持ちいい」を見つけるためのアドバイスはありますか?

紗倉:料理をするのと同じで、自分の好みに合わせて味つけを足したり引いたりできるのがセルフプレジャーのいいところ。私は3、4歳の頃からセルフプレジャーをするのが好きで、その快楽が自分にとっての一番。他人とする以上に気持ちいいです。

 

——他人と一緒に得られる快楽だけがすべてではないですからね。

紗倉:理想の快楽のかたちって、人によって違いますよね。自分で気持ちいいところを見つけたほうが満たされることもあるし、他人とすることで得られる多幸感もある。両方の楽しみ方があるなかで、選べることがいいのかもしれません。快楽に勝ち負けはないし、処女とか童貞とかも関係ない。自分がいま大切に思うこと、やりたいことを自分自身で尊重していきたいものです。

 

——最後に、他者から求められることと自分らしさのあいだで悩んでいる女性にアドバイスをください。

紗倉:性については、「1人で解決できるもの」か、「他人とシェアしないと解決できないもの」かで、違ってくると思います。例えば自分には欲望があるのに、相手には欲望がないとか、その逆もある。そういったところで苦しい思いをされている方もいて、いろいろなケースがあります。

でもいまは、自分で自分の体を楽しむことが可能な時代。いろんなグッズがあって、いろんなものを見ることができて、いろんな妄想ができる。たくさんのツールがあるからこそ、使わないともったいないです。誰かのせいで阻まれるというのが一番悔しいこと。「当たり前」に縛られない、自分が大切にできるような居場所をつくっていってもらいたいと思います。

 

 

 

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