CULTURE

2021年1月27日

作家が紡ぐセルフプレジャー
第3回:長井短「自慰のカニカマ化」

「セルフプレジャー」をテーマに、作家が思いをしたためる連載「作家が紡ぐセルフプレジャー」。第3回目は、モデルや俳優、エッセイストとしてマルチに活躍している長井短さん。

 

 

「セルフプレジャーについての執筆依頼が来てます」ってマネージャーさんに言われた時、本当のことを言うと何を言ってるのかさっぱりわからなかった。セルフプレジャー……、何やら意識の高そうな単語だなってのが第一印象で、深呼吸とかオーガニックとかに付随する何かなのかな、だとしたら私に書けることはないなと思った。恐る恐るGoogleに「セルフプレジャー」と入力すると、あぁなんだアレのことか。セルフプレジャーは、私の言葉で言うならばオナニーのことで、オナニーをセルフプレジャーと呼ぶ世界があることをこの時私は初めて知った。

「オナニー」っていう言葉が使いにくいのはわかる。なんとなく磯の香りのする言葉だ。それと比べて「セルフプレジャー」はとても上品でマカロンみたい。でも、呼び名がなんであれ実態は変わらないっていうことは400年以上前に既にシェイクスピアが台詞にしていて、磯だろうがマカロンだろうがアレはアレ。それでも、少しでも私達女性にとって抵抗のないものにしていきたいっていう気持ちは私も凄くわかる。その為にマカロンにするのは、女性がマカロン好きだから? 私はマカロンよりあたりめが好きで、だからアレをオナニーって呼ぶんだろうか。

オナニーに禁忌的なイメージが付いたのは中学2年の時だった。友達同士で性の話をすることなんて全然なくて、『週刊少年ジャンプ』で誰がかっこいいかを話していただけだったあの頃。校舎内には先週行った移動教室の興奮がまだ漂っていて、もうすぐ始まる夏休みにワクワクしながら授業を消化していると、信じられない噂が耳に入ってきたのだ。

 

「あの子、移動教室の時お風呂でオナってたらしいよ」

 

誰が流し始めたのかわからないけどあまりにインパクトの大きい噂で理解が追いつかない。あの子ってのは元々ちょっとクラスから浮いた存在だったAちゃんのことで、人に嫌われてるとこんな噂流されるのかよ。っていうか、大浴場でオナニーしてたってなんだよ。そんなわけないだろってことは誰にでもわかるんだけど、嘘だと分かりきっていても迫力のある噂で、この時以来私の胸には「大浴場でオナニーするべからず」「オナニーを人に悟られるべからず」この二つが刻まれた。

「大浴場でオナニーするべからず」は全くその通りなんだけど、「人に悟られるべからず」はどうだろう。そりゃもちろん、自分のプロフィールに書く必要なんてないし、人に話すような機会も少ない。でも、男性たちは堂々とその行為を発表していて、この違いは一体なんだ。教室では男子たちがAVの貸し借りをして、居酒屋では男性たちが「オナニーするの?」と質問してくる。どうして、彼らにできて、私たちにできないんだろう。自慰の市民権がある男性陣と、ない女性陣みたいで嫌だった。

じゃあもし、中学生のあの時「オナニー」が「セルフプレジャー」で、その行為自体ももっと可愛らしいイメージを纏っていたらどうだっただろう。「あの子、大浴場でセルフプレジャーしてたんだって」「え〜凄い〜可愛い〜」ってなるか? 男子たちと同じように、教室でAVの貸し借りをしたり、手を動かす真似したりしたか? 居酒屋で「セルフプレジャーとかする?」ってにやけ顔で質問したい? 私の答えはノーだ。そんなことがしたいんじゃない。別に(ごく一部の)男性みたいになりたいわけじゃないのだ。ただ、普通にそこにあるものになってほしい。毎日食べるお米みたいにとは言わないから、時々食べると結局美味しい普通さがほしい。今まで私は、女性に自慰の市民権がない感じが嫌で、過剰に「オナニー」って言葉を口にしている節があった。この記事の冒頭でわざわざ「私はオナニー側ですよ」ってことを提示しているのも、多分悔しさ由来の宣言で、女性だけが自慰に恥じらいを持たなきゃいけない空気に納得いかなかったのだ。でもさっきも書いた通り、道端で堂々と「昨日オナニーしてさぁ」って話をできるようになることが市民権ではない。じゃあ私の望む市民権ってなんなんだろう。「セルフプレジャー」なんだろうか。私にとっての自慰は別にそんな素敵な語感でできていない。それでも、みんなで市民権を得るためには、やっぱり一度優しくて可愛い大切なものみたいに包装しなきゃいけないんだろうか。その方がみんなとっつきやすい? 「みんなでセルフプレジャーしよう」って言われたらしようって思う? 違う。そうじゃない。当たり前ってそんな風に、みんなで気持ちを一つにしない。もっと適当なものなはずだ。

「オナニー」があたりめで、「セルフプレジャー」がマカロンなら、その二つのちょうど真ん中に位置する食べ物はなんだろう。いやらしくなくて、かといって洗練されてもいない、気づいたらあるみたいなもの。何故か冷蔵庫にありがちな食べ物、それはカニカマだ。磯も可愛さも兼ね備えた逸材。あたりめを食べたことは、口が臭い宣言になりかねないからちょっと言いづらい。かといってマカロンは可愛いすぎるから凄く言いたくなっちゃう。言ってもいいし言わなくてもいい、正直食べたかどうかに関心が向かない食べ物ってな〜んだ?

 

カニカマ!!

 

自慰のカニカマ化、これが私の市民権。驚くほどしっくりくるのでこれからは自慰のことをカニカマって呼びたいくらいだ。あると嬉しいし、なくてもまぁ別にオッケー。みんな知ってるカニカマ。特になんの先入観もない食べ物カニカマ。自慰にも、このくらいのキャラクターでいてほしい。過剰に嫌うでもなく、かといって過剰に推奨するでもなく、わざわざ話題にするほどでもないけれど、別に隠してるわけじゃない。そのくらいのもんになってほしいなって心から思う。

その為には、私の中にもあった「オナニー=禁忌」って言うイメージをまず壊さなきゃいけなくて、「セルフプレジャー」はその為に派遣された使者なのかもしれない。その純粋そうな語感とマカロンみたいな御姿で、暗闇に追いやられたオナニーを照らしてくださるのですね……。その光で磯臭さは次第に薄らぎ、くすんだ色も輝きだし、すっかりつきものの落ちたオナニーはいつしか赤と白のキラキラしたカニカマとなるのであった。

 

プロフィール

長井短

1993年生まれ、東京都出身。「演劇モデル」と称し、舞台、テレビ、映画と幅広く活躍する。主な出演作品はドラマ『真夏の少年〜20201945』『妖怪シェアハウス』『家売る女の逆襲』、映画『あの日々の話』『耳を腐らせるほどの愛』など。また、読者と同じ目線で感情を丁寧に綴りながらもパンチが効いた文章も人気がありさまざまな媒体に寄稿するなか、初の著書『内緒にしといて』を晶文社より出版。現在1月クールテレビ朝日・オシドラサタデー『書けないッ!?~脚本家 吉丸圭佑の筋書きのない生活~』に出演中。

Twitter:@popbelop Instagram:@0mijika0

 

 

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