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40代の女にも性欲はある。不倫ドラマ『シジュウカラ』のコンビと語る、中年の恋愛と人生

 

年齢を重ねると、からだにはさまざまな変化が現れ、周囲からの見られ方も変わります。「いつまでも美しく」「実年齢より若く」といった言葉に振り回されることもあれば、逆に「いい歳して恥ずかしい」と押さえつけられることも。年齢に応じた人生の選択を迫られる場面がどうしようもなくある私たちは、そんな変化にどう向き合っていくべきなのでしょうか?

 

今回は、40代の女性漫画家の仕事や家庭、そして20代青年との不倫をリアルに描いたドラマ『シジュウカラ』(テレビ東京)でチーフプロデューサーを勤める祖父江里奈さんと、原作者の坂井恵理さんをお招きし、iroha広報の西野芙美も交えて、「女性のからだと年齢」をテーマにお話をうかがいました。年齢を重ねることとの向き合い方や、中年の恋愛や性欲、そしてそれらを描くこれからのエンタメのあり方とは。

 

※本記事には一部『シジュウカラ』の内容に関する記述が含まれます。あらかじめご了承ください。

 

■プロフィール

祖父江里奈
1984年生まれ。2008年テレビ東京入社。バラエティ番組を10年担当したのち、ドラマ室へ。『来世ではちゃんとします』『38歳バツイチ独身女がマッチングアプリをやってみた結果日記』『だから私はメイクする』などに携わる。2013年には『ビッチ』で映画監督デビューも果たした。
Twitter:@RSobby

 

坂井恵理
1972年生まれ。1994年漫画家デビュー。双葉社『JOUR』にて『シジュウカラ』を連載。そのほかの作品に『ヒヤマケンタロウの妊娠』『鏡の前で会いましょう』『妊娠17ヵ月!』(以上講談社)、『ひだまり保育園おとな組』(双葉社)、『サード』(祥伝社)、『ビューティフルピープル・パーフェクトワールド』(小学館)がある。
Twitter:@erisakai

 

西野芙美
2017年2月に株式会社TENGA入社。2021年3月よりマーケティング本部国内マーケティング部部長として、イベント登壇やメディア出演などもこなす。
Twitter:@nishino_fumi

 

女の痛みがわからない夫と、わかってくれる不倫相手。『シジュウカラ』に描かれた生きづらさ

——40代の女性漫画家と20代の青年の不倫を描いた『シジュウカラ』。原作者の坂井さんは、なぜ本作を描こうと思ったのですか?

 

坂井:連載がはじまったのは4年前の2018年のこと。主人公の綿貫忍と同じく、私自身も漫画家としてはわりと崖っぷちだったんです。次の連載は決まっていたけれど、「ここでヒット作品をつくらないと、あとがない」という焦りがありました。そこで自分でも描いていて楽しく、電子書籍でウケるものをと考えたときに、「不倫もの・年下・漫画家の漫画」という3大テーマを軸にすることにしました。

 

祖父江:『シジュウカラ』は私も大好きな作品です。社内でドラマ化の企画を提案してくれたプロデューサーは男性でしたが、私からみても、女性だけでなく男性も受け入れやすいように描かれていると感じます。

 


ドラマ『シジュウカラ』あらすじ:アシスタント歴20年を超えて夢を諦めた売れない漫画家・綿貫忍は、地元に戻って筆を置いた直後、昔の自作が電子書籍でリバイバルヒットする。「これが最後」と、再度本気で漫画と向き合うなかで出会ったアシスタントの橘千秋は、忍に対して不自然なアプローチをかけてくる。そのうちに、夫との不和が顕在化しはじめ……。

 

 

——主人公の忍のリアリティーもさることながら、彼女と不倫関係になる橘千秋というキャラクターも魅力的に描かれています。

 

坂井:私が年下の美青年にあまり興味がなかったもので、橘千秋というミステリアスなキャラクターをどうつくるか、最初はなかなか苦労しました。そこで「どうしたら私はこのキャラクターを愛せるようになるのだろう」と考えたとき、「女と同じような痛みを知っている男」だったら描けるなと思ったんです。

 

坂井恵理さん

 

 

祖父江:それが、「千秋が性被害を受けたことがある」というバックグラウンドにつながっているのですね。これまでドラマでも、男性の性被害というのはあまり描かれてきませんでした。非常にデリケートな部分でもあるので、担当プロデューサーも毎回臨床心理士にお話を聞きながら、慎重に取り組んでいました。

 

祖父江里奈さん

 

 

西野:たしかに、女性の痛みがわかる男・千秋と、女性の痛みがわからない男・洋平(忍の夫)との対比が印象的でした。私は、ドラマで洋平が言った「男の浮気と女の浮気は違うだろ」というセリフがすごく印象的で(漫画では千秋の父親が発言)。

 

これって、現代を生きる人たちがなんとなく思っていることなのかもしれない。そんな、日常に隠れている生きづらさを生み出す価値観が、チクチクと刺さる言葉になって作品に散りばめられていると思いました。

 

西野芙美

 

 

坂井:洋平は、私自身の父親に重なる部分が多いと思います。父は洋平ほどわかりやすいモラハラをしていたわけではありませんが、母親にパートに出ることを禁じたりすることに、なんとなく女を下に見ている気がして嫌だなと思っていて。そんな私の過去の体験もありますが、Twitterでさまざまな人がつぶやいている「夫の愚痴」も参考にしたりしています。

 

「無理をせず、頑張るところと手を抜くところを決めておく」(坂井)

——みなさん自身は30代から40代、そして50代にかけてのからだの変化を、どのように捉えていますか?

 

西野:私はもうじき33歳になるのですが、5年、10年前と比べてもだいぶ変化がありました。10年後、40代になったとき、どんなことが待ち受けているのか。自分でも不安に思うことがあります。

 

坂井:今年50歳になる私としては、たしかに徐々に老けてはいくけれど、40代になったからといってそこまで劇的な変化はなかったかなと思います。もちろん、目が霞むとかはありますけれど(笑)。

 

祖父江:私は今年38歳のアラフォーなのですが、痩せなくなりましたね。

 

坂井:わかります。『シジュウカラ』を描きはじめたときに、いくつか決めたルールがあるのですが、そのうちのひとつが「主人公は恋をしても痩せない」というところで。

 

『シジュウカラ』(『JOUR』連載 / 双葉社)

 

 

祖父江:確かに、裸のシーンも少しプニっとしていますもんね。

 

西野:おしゃれになるけれど、痩せはしない。すごくリアルな感じがありますよね。

 

坂井:一方で、年を重ね、人生経験を積んだひとりの女性としての魅力をしっかり描くことは大切にしています。

 

西野:たしかに、恋愛漫画のテンプレートとしてある「なんの取り柄もない私が選ばれる」ような話ではないので、千秋が忍に魅力を感じる理由が伝わってきます。

 

——いつまでもキレイで、若々しくいるという考え方について、みなさんはどのように捉えていらっしゃいますか?

 

坂井:最近はボディポジティブ(自分のありのままのからだを受け入れて愛そうという考え方)という言葉が浸透してきましたが、それでもやっぱり「おしゃれじゃなきゃいけないのかな?」とプレッシャーに思うことは多々あります。

 

たとえば白髪ひとつとっても、それを染めるのか、染めないで活かすのがいいのかと、悩みは尽きません。歳をとったら個人差も顕著に出てくるので、無理をしないで「ここは頑張るけれど、ここは手を抜く」と決めておく必要があるなと思うようになりましたね。

 

 

祖父江:いつまでもキレイで若々しくあろうとするのは、自分のためといいつつも、心のどこかで男ウケを意識しているからじゃないでしょうか。だから髪の毛を染めるときも、「今回は攻めた色にしたいなあ、でも来週飲みに行く男の子が気になるし……無難なところにしておくか」という判断をしてしまう。

 

私自身、結婚したいとか、子どもを産みたいという気持ちはほぼなくなってきているんですけれど、時々「私はいつまで男ウケを意識したオシャレをするのだろう」と思いますね。

 

西野:老人ホームでも恋愛は起こりうるものですから、モテるために若くいよう、オシャレでいようという気持ちをずっと持ち続ける人もいるのだと思います。最近は「自分のため」と「モテるため」のバランスをとりやすいファッションの選択肢も、増えていると感じます。

 

——若い頃と自分の容姿の捉え方が変わったなと思う瞬間はありますか?

 

西野:個人的には、歳を重ねるたびに自分の顔とかからだをよく観察するようになりましたね。

祖父江:あー、わかる。

 

 

坂井:昔とは違うなというのは、やっぱり鏡を見ているときに思いますよね。

 

西野:同時に、年齢を重ねて変化の過程を注意深く観察するようになったことで、自分が本当に似合うものもわかってきた気がします。自分のコンプレックスを隠したいという考え方から、この素材をどう活かすかという考え方に変わったなと思います。

 

 

「性別も年齢も関係なく、いろいろな人が主人公になるドラマが増えていけばいい」(祖父江)

——坂井先生は漫画を通していろいろな女性の姿を描いてきました。そのうえで大切にしていることがあれば教えてください。

 

坂井:とにかくわかりやすく描こうというのを心がけてきました。ジェンダー間の不平等の問題についても、徐々に一般的になりつつありますが、問題を真正面から描いて「難しくて読めない」と思われてしまっては本末転倒。だから、誰もが受け入れやすいように表現しています。

 

祖父江:『ヒヤマケンタロウの妊娠』でも、「産むのは女の仕事だろ」とか「繁忙期に妊娠するなんて」とか、かなりストレートなセリフまわしで、妊娠した人に対する周囲からの圧力が描かれますよね。そのわかりやすさが、これまでジェンダー問題を意識してこなかった人に気づくきっかけを与えているのかも、と思います。

 

男性が妊娠するようになった社会を描いた『ヒヤマケンタロウの妊娠』(講談社)。
Netflixで映像化され、2022年4月21日より配信開始

 

 

坂井:私自身、まだまだ迷うことや、顕在化していない思いがあるのですが、それを誤魔化さずに描こうという姿勢を大切にしています。

 

——祖父江さんはエンタメの仕事を通して、ジェンダー問題やエイジズムに対して、世相が変わってきたと感じることはありますか?

 

祖父江:やはりLGBTを含む性的マイノリティーをテーマにした作品は増えてきていると思います。『きのう何食べた?』はその代表例ですよね。そのほかにも、現在NHKでは『恋せぬふたり』というアロマンティック・アセクシャル(他人に恋愛感情を抱かないのが前者で、他人に性的欲求を抱かないのが後者)をテーマに扱ったドラマをやっています。

 

きっとこれから、女性同士の恋愛ドラマも出てくるのではないでしょうか。私が若手だった頃は、ボーイズラブの企画を出したら即却下ということもザラでしたから、大きな進歩ですよね。

 

西野:『きのう何食べた?』は私も大好きで、映画も観に行ったのですが、意外と30代以上の男女カップルで観に来ている方が多いと感じました。「BL」というジャンルに縛られず、長年連れ添った2人の日常という普遍的な内容だったからこそ、多くの人に受け入れられているのだなと思いましたし、色眼鏡なしに「いいね」って思われる時代なんでしょうね。

 

祖父江:年齢のことでいえば、最近は40代が主人公のドラマも、どんどん増えています。平均年齢70歳のバーで40歳の主人公が働きはじめる『その女、ジルバ』や、逆境に立たされた3人の女性を描く『ドリームチーム』もそうですね。

 

エイジズムに関しては、真っ向から向き合う作品をつくるというよりも、純粋に40代やそれ以降の年代の人物を主人公にしたエンタメ作品が増えるといいのでは、と個人的には思いますね。「ヒロインは若くてかわいい子」「恋愛物語の主人公は若い男女」ばかりじゃなくていい。性別も年齢も関係なく、いろいろな人が主人公になるドラマが増えていけばいいなと思います。

 

西野:じつはirohaでも、40代以上の女性からの性に関するお悩み相談が多いのですが、彼女たちにも「年齢関係なく楽しんでいいんだ」と思ってもらいたい。そのために、祖父江さんがいうように、エンタメを通して「こう生きてもいいんだ」と思えるようになることがすごく素敵ですよね。irohaでもそういう流れをつくっていけたらいいなと思います。

 

 

「『シジュウカラ』で一番描きたかったのは、忍がオナニーするシーン」(坂井)

——これからを生きる女性たちは、エイジズムや自分のからだの変化にどのように向き合っていくと良いのでしょうか?

 

祖父江:からだへの変化の出方は、本当に人それぞれなんですよ。

 

坂井:本当にそう。性欲の出方も全然違いますよね。じつは『シジュウカラ』で一番描きたかったのが、忍がオナニーするシーンだったんですよ。若い女の子に性欲があるということは、いまや共通認識になっていますが、中年以降の女性の性欲はいまだにないものとされている。だからこそ描きたかったんです。

 

 

祖父江:中年女の性欲問題は、課題ですよね。私自身、いつまで「女とエロ」をテーマに創作活動を続けるんだろうと思っていましたが、まだまだ使命があるんだと実感することができました(笑)。

 

西野:中年女性の性欲も、もっとポジティブに描かれるようになれば、多くの人が自分の性を肯定できるようになるでしょうし、共感できる人も増えていくのではないでしょうか。

 

坂井:そうですよね。性欲がないならないでいいんですが、「女は男と違う」ということを内在化させてしまい、その結果性欲がなくなっている女性もまだまだいると思いますから。

 

西野:性的関係のあり方について考えたときに、いまの世の中に「あるもの」とされている関係の種類が「若い男女」「若い女性と中年男性」など非常に限られているんですよね。「中年女性と若い男性」とか、もっと多様な関係が当たり前になっていくといいんだろうなと思います。

 

祖父江:中年同士の恋愛も、「いまさら私が」という感覚がなくなっていけばいいですよね。

 

 

坂井:無理なダイエットをすると、中年になってからツケが来るので注意してほしいですね。私は30代後半から好きなことを描けるようになり、それが認められてきたので、40代はとても楽しかったです。肉体的な若さ以外にも自信を持てる要素があると、人生の後半も豊かに生きられると思います。

 

西野:ダイエットをしても体重が減りにくくなったり、似合っていた服も似合わなくなったり。そうやって変わっていく自分に一つひとつ向き合い、いまの自分が本当に心地いいものってなんだろう? と考えることこそ、セルフケアにもつながっていくと思います。

 

祖父江:抗いすぎず、ひとつずつ受け入れていくことが大事ですよね。シミとかシワとかができてくると気になってしょうがないですが、止まらないものなので。

 

坂井:たしかに、財力を使っても限界はありますものね。

 

祖父江:そう。だから受け入れたうえでどう楽しめるかだと思います。

 

 

ドラマ24『シジュウカラ』
2022年3月25日(金)24:12〜 第12話(最終話)放送
動画配信サービス「Paravi」「ひかりTV」で全話配信中
【Paravi】 URL:https://www.paravi.jp
【ひかりTV】URL:https://www.hikaritv.net/
出演:山口紗弥加 板垣李光人 宮崎吐夢 入山法子 和田光沙 / 酒井若菜 池内博之
監督:大九明子 成瀬朋一 上田迅
脚本:開真里

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