CULTURE

2022年10月21日

「私らしく生きる力」をもらえる 韓国エンタメ入門。いまこそ触れたい、ドラマ・映画・本9選

 

コロナ禍をきっかけにブームを巻き起こし、一気に身近になった韓国ドラマ。仕事や恋愛、家族関係など日常生活でさまざまな壁にぶつかりながらも、自分を曲げることなく前進するヒロインに憧れや共感の気持ちを抱く人も多いのではないでしょうか。「自分らしさ」を大事にしようとする女性の姿は、ドラマだけでなく映画や本のなかにも。

今回は、日本や韓国をはじめとするアジアのエンターテインメントに造詣が深いライターの西森路代さんに、「自分らしさ」を貫く女性たちに背中を押してもらえるような、韓国の本、映画、ドラマをご紹介いただきます。(※一部、作品のネタバレが含まれます。あらかじめご了承ください)

 

西森路代
1972年、愛媛県生まれ。ライター。大学卒業後、地元テレビ局に勤務の後、30歳で上京。派遣社員、編集プロダクション勤務、ラジオディレクターを経てフリーランスに。主に香港、台湾、韓国と日本のエンターテイメントや、女性の消費活動について執筆。
twitter:@mijiyooon

 

盛り上がる韓国のフェミニズムと、自分を肯定するメッセージ

ドラマ、映画、そして文学やエッセイなど、話題に事欠かない韓国のエンターテインメント。近年は、さまざまなジャンルの作品が日本でも広く楽しめるようになり、なかには女性の背中を押してくれるような作品も多い。

そのような作品が増えた背景は、2016年の江南駅女性殺害事件(ソウル・江南駅近くの公衆トイレで、20代の女性が面識のない男性によって殺害された事件。女性を狙った無差別殺人だったとして「被害者は自分だったかもしれない」と感じた女性たちが声を上げた)をきっかけに、フェミニズムの意識が高まったことも無関係ではないだろう。

また、BTSの世界的な成功とともに、彼らの発する「自分を肯定して生きていく」というメッセージが広まったこととも相互に影響し合いしながら、さまざまな文化が発展している状況が背景にあるのではないか。

 

自分の生き方は自分で選ぶ。さまざまな女性の生き方に触れるエッセイや小説

エッセイ本『私は私のままで生きることにした』が伝える、いつも「いい人」にならなくて良いというメッセージ

そんな現状を象徴するようなエッセイがある。キム・スヒョン著、吉川南訳の『私は私のままで生きることにした』(ワニブックス)は、韓国で113万部、日本でも52万部の売り上げを誇るベストセラーだ。

BTSのメンバーの一人、ジョングクが本書を愛読していることがSNSで拡散され、それをきっかけに手に取った人も多いと言われている。

薄紫色の背景に、ちょっと脱力した雰囲気の女性が寝転がった表紙からは、「あなたはあなたらしく生きていればいいよ」と、一見ただただ優しい言葉が詰まった本のようにも見える。しかし、実際には、「この矛盾だらけの世の中で、どう生きていくのかは自分で選び取っていくのだ」という、強い意思を感じさせる内容だ。

そのような力強いメッセージの背景には、熾烈な競争社会における長時間労働や雇用不安など、筆者の生きる社会の状況があると本書にははっきりと書いてある。日常の不安のなかで、自分を見失わず、かつ壊れずに生き抜いていくためには、他人の尺度に揺らがされたり、数字のためだけに働かされたりしていてはいけないのだ。

 

『私は私のままで生きることにした』
(キム・スヒョン 著 / 吉川南 訳、
ワニブックス刊)

 

誰かの背中を押してくれる作品として本作をイメージしたとき、私は、「ほっと一息つきましょう」とか、「考えすぎないでいいんだよ」とか、そんな風に言ってくれる本を想像していた。しかし、もしもそんなアドバイスをもらったからといって、抱えている問題が根本的に解決するわけではない。

女性向けの自己啓発書はとにかくポジティブシンキングで、物事を悪い方向に考えるのではなく、何かにつけて文句を言うような態度をあらためて、良いところだけを見れば、きっと周囲の人も私に対する態度を変えてくれる、というアドバイスも多かったように思う。

しかし、著者は、単なる物わかりの良い人間になることを解決法とはせず、「私のことを勝手に評価する人に対してまで、いい人であろうとすると、正当防衛の権利まで失ってしまう」と書いている。

『私は私のままで生きることにした』のなかで私が一番しびれたのは「この社会の唯一の救い手は、問題から目を背けない個人」という言葉である。それは、リラックスして自分をときには甘やかそうという心地良いメッセージとはほど遠いが、こんなふうに考えている人がいるのなら、少しは社会が良くなるのではないかと思える。建設的なアドバイスに、背中を押してもらったような気持ちになれた。

 

多様な女性たちの体験が連なる短編集『彼女の名前は』

韓国には、ほかにも決して優しいわけではないけれど、現時点の問題をはっきりと指摘したうえで、こんなことは終わりにしなければならないと、力強い言葉をくれる本がたくさんある。

『82年生まれ、キム・ジヨン』のチョ・ナムジュが書いた短編集『彼女の名前は』(小山内園子訳、筑摩書房)は、たくさんの女性たちの、女性だからというだけで不条理な目にあった体験が数珠繋ぎで語られる作品である。この短編集も、決して明るいだけの話ではない。むしろつらいことの連続なのだが、次の世代を同じ目に遭わせないために戦う女性たちの物語に共感して、そこから自分はどうしていこうかと考えることも心強さになる。

 

型にはまらない暮らしのあり方を示す『女ふたり、暮らしています。』

同志がいる心強さについては『女ふたり、暮らしています。』(キム・ハナ、ファン・ソヌ著 / 清水知佐子訳、CCCメディアハウス)にも書かれている。40歳を目前に、結婚とか恋愛とか、「こうでなければいけない」という規範から一度、離れてみて、心地よい関係性で暮らしている女性ふたりのエピソードを読んで、こんな暮らし方もあるのかと視野を広めることができた。

 

『女ふたり、暮らしています。』
著者の一人、キム・ハナのInstagramより

 

物語る女性たち。小説原作映画や女性監督の自伝的作品

映画『82年生まれ、キム・ジヨン』。原作のその先に一歩踏み出す

日本でも公開され、話題となった映画『82年生まれ、キム・ジヨン』。この映画は、先述のチョ・ナムジュの同名小説が原作であるが、この物語を見たり読んだりしたことがきっかけで、韓国のフェミニズムのことを知った人も多かったのではないだろうか。

小説は、主人公のキム・ジヨンの半生を振り返り、現在に至るまでを描いていた。彼女はごくごく「普通」に生きて、彼女なりに頑張ってきたというのに、社会や経済の変化、その環境に根づく性差別に巻き込まれてしまい、徐々に心がむしばまれていく。個人的には、淡々とした筆致で問題をしっかりと提起する小説版に衝撃を受けたし、小説が出版された2016年の韓国の社会状況ではそれが必要であったのだと思う。

 

『82年生まれ、キム・ジヨン』Blu-ray&DVD 発売中、デジタル配信中(発売元:クロックワークス/販売元:ハピネット・メディアマーケティング)
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映画版は、キム・ジヨンが結婚、出産をするも、女性を取り巻く社会的な状況によって自分らしく生きられない現状を描いたうえで、そこから一歩踏み出そうとする姿を描いている。最後にキム・ジヨンが、自分に起こったことを自分の手によって書き記すところで終わっていた。

 

職を失った映画プロデューサーの再起『チャンシルさんには福が多いね』

自分に起こったことを自分で書き記す、自分の物語を自分で形にする、ということは、フェミニズムの物語のひとつのあり方だと言えるだろう。

映画『チャンシルさんには福が多いね』もまた、自分でつくりあげた物語を自分で書き記し、それを映像にするという行為が、自分の背中を押しているように思える作品だ。

物語は映画プロデューサーであった主人公のチャンシルが、これまでともに仕事をして支えてきた監督の突然の死によって仕事を失うところから始まる。この映画の監督であるキム・チョヒはホン・サンス監督のもとでプロデューサーをしていた経験があり、自伝的な側面もあるのだろう。

 

https://youtu.be/Kz1XwrenMlA

『チャンシルさんには福が多いね』予告編

 

チャンシルは、仕事を失ったあと、これまで懇意にしていて、「あなたがいないと始まらないわ」と言われていた会社の社長からも手のひらを返され、「(プロデューサーの)あなたがいなくてもいい映画はつくれた」「誰にでもできる仕事でしょう?」とまで言われてしまう。

誰かのためのケアを担う部分のある仕事は重要であり、なくてはならないものなのに、目に見える評価においてはおざなりにされてしまうことが多々ある。彼女は、自分自身で筆を執り、映画をつくろうと脚本を書き始める。そして、その先に映画が上映される未来が示唆される。そんな姿に前向きなエネルギーが感じられて、おのずと勇気づけられた。

 

かつて愛し合った日韓の女性が手紙をきっかけに再会する『ユンヒへ』

また、今年日本公開となった『ユンヒへ』は、韓国に住む女性と北海道に住む女性の物語。高校時代、恋愛感情を抱いていたものの離れ離れになったふたり。中年にさしかかり、ある手紙をきっかけに、再び彼女たちの人生が交じり合う。結果的には共に生きていくわけではないが、同じ瞬間に、同じように前を向いて進んでいく存在を近くに感じられることは、こんなに力強い気持ちになれるのかと思える一作だ。

 

『ユンヒへ』予告編

 

前向きなエネルギーで周囲を巻き込んでいく韓国ドラマのヒロイン

タフなヒロインと、女性たちの歯に衣着せぬコミュニケーションが楽しい『愛の不時着』

2020年に大ヒットし、日本では知らない者はいないのではないかというほどの作品となったドラマ『愛の不時着』。ヒロインのユン・セリが、スカイダイビングの最中に突風に巻き込まれ、北朝鮮にたどり着くという、アッと驚く展開で、1話から続きが気になって仕方ない作品となっていた。

セリは、傍若無人だけれど、フェアな精神があることが魅力。北朝鮮に不時着するというありえない境遇にあっても、知恵を尽くし、希望へのエネルギーを失わず、人を巻き込みながら実行していくタフさに励まされた。

脇を固めるアジュンマ(おばさん)たちの生き生きとしたキャラクターもこのドラマの見どころ。お約束として、最初はヒロインとそりがあわないのだが、次第に打ち解けていく。歯に衣着せぬコミュニケーションで、言いたいことをはっきり言い合えて、笑い合えるような関係性は、日本のドラマや実生活の適切な距離感を保つ感覚に慣れていると最初は斬新に見えるが、次第に、こんな関係性もいいなと思えてくる。

 

『愛の不時着』予告編

 

「幸せの基準は私が決める」、困難の先にたどり着いた答え。『椿の花咲く頃』

『椿の花咲く頃』は、ドラマの終盤に行くにつれ、家族や人間関係は、相手を思えば思うほど誤解が生じたりすれ違ったりするものであるということが描かれていく。ときには離れ離れになったりもするが、一方で大切に思い合う人同士の言葉では言い尽くせない深い情が描かれていて、韓国ドラマらしいなと思う。

ヒロインは、かつて母に捨てられ、恋人とのあいだに息子を身ごもるが、それを恋人に告げることなく別れたというシングルマザーで、決して順風満帆な人生を送っているわけではないが、最後に「幸せの基準は私が決めることにしました」と語る。これは、『私は私のままで生きることにした』にも通じるところがあるが、さまざまな困難を経験してきた彼女がたどり着くその答えには説得力があった。

しかも、その言葉を交わす相手が、かつて自分を夫の浮気相手だと勘違いして目の敵にしていた女性弁護士なのだからなおさらだ。この社会では、幸せのかたちを限定すればするほど、女性同士を争わせようとする構造にはまってしまいそうにもなるが、彼女の言うように「幸せの基準」を自分で決めたときに、その構造から抜け出せるのかもしれないと気づかされた。

 

『椿の花咲く頃』予告編

 

清く正しいヒロイン像を覆す、懐かしのドラマ『私の名前はキム・サムスン』

古いドラマになるが2005年のドラマ『私の名前はキム・サムスン』は、ときどき見返したくなる一作。この作品は、『愛の不時着』でヒロインの相手役を演じたヒョンビンの韓国での人気を不動のものにした作品だ。

キム・ソナ演じるヒロインは、30歳のパティシエで、ドラマの冒頭で彼氏に振られ、職も失い、踏んだり蹴ったりのところから物語がスタートする。かつてヒロインは清く正しく美しく、そして儚くあれという不文律があったとしたら、サムスンは口は悪いし、喧嘩っぱやいしで、真逆のキャラクターであった。

しかし「女性はこんなことしない」などといった規範に従わないといけない空気を覆してくれたことで、当時見ていた女性たちは自分をサムスンに重ね、肩の荷が降りたような気分になったものだ。サムスンも一種の「私は私らしく生きることにした」を体現したキャラクターだったのではないかと思う。

 

成長を追い求めて鼓舞するのではなく、違った形で背中を押してくれる

このように、韓国の文学やドラマ、映画には、それぞれの見せ方で女性の背中を押すような作品がたくさんある。

もっとも、かつては、前を向いてとにかく成長しようと鼓舞する形で背中を押すような韓国の作品も多かった。しかし、今回紹介したエッセイ本『私は私のままで生きることにした』にも顕著だが、頑張りすぎて自分を見失ってしまいそうになるような時代を経て、「自分のことを自分で大切にしよう」「そうすることで誰かのことも、自分とつながる世界のことも大切にできる」と、別の形で背中を押すような空気へと変化していることが感じられる。そんな空気が、ほかの本や映像作品にも収められている。

日本にいる私たちにとっても、コロナ禍という非日常の緊張感から、自分で自分を大切にしないと、そして自分を休ませてあげないと、穏やかに暮らせないという気運が高まった。だからこそ、いま、こうした韓国の映像作品や本が求められているのではないだろうか。

 

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